雨の日曜日

宛先もわからないまま

醒めない夢がみたい

 諦める、とは、どういうことなんだろう。

 片肘をついて窓の外をぼんやりと眺めながら思う。食事が終わってからたっぷり時間を空けてやってきたコーヒーは、わたしにはやけに熱くて、さらにたっぷりと時間をかけて減らしていく。

 喫茶店での待ち合わせが憧れだったあの頃、遅れてきた恋人に怒った振りをしながら、ケーキを半分ずつ食べることを夢見てた。そんな少女のような夢は気付いたらいつの間にか叶っていて、大した感動もなくそういえば、と過ぎてから気付く。醒めない夢がみたい。

 諦められたのだ、と思う。わたしを。わたしとの、関係を。そしてわたしも、諦めたのだと、思う。変わらないものはないね。桜は散るから綺麗だし、夏は終わるから楽しい。人の気持ちも、同じだ。もう二度と、あの頃と同じように誰かの気持ちや自分の気持ちを信じたり、ましてや待つことなんて、できないと思う。大人になると怖いものが増えるなんて、誰も教えてくれなかったな。砂糖もミルクも入れない黒い鏡が波打って、疲れた顔が歪んで消える。

 真っ直ぐに向けられる気持ちが、少しつらいなんて言ったら、きっととても傷ついた顔をして、それでも明るい声を出すんだろう。遠く離れた距離を関係ないと言い切って、簡単に会いにきた彼は、何を思っているのかな。わたしのことなんて、なにも知らないくせに。電波が気持ちを乗せて飛んでいく。そこに温度はあるのかな。言葉にならない気持ちはないのと同じなんだって。呼吸のできない気持ちが死んでいく。

 死なせてごめんね。存在したはずの気持ちたち。曖昧な言葉になんて変換できなかった、大切なものたち。形がなければだめみたい。わたしには身体があるけれど、死んでいったあなたたちでわたしはできている。明日になったら呼吸はできる?

 別れがあるから出会いがあって、出会いがあるから別れがあるね。綺麗ごとしか綺麗じゃない。鉄の塊が彼を連れて、日付変更線を越えて行く。またわたしはひとり、今日に残される。

 こんな気持ちも、こんな夜も、いつか平気になってあんなこともあったなあ、なんて笑える日が、きっと来ることが、来てしまうことが、いまはまだ寂しい。

 醒めたコーヒーの向こうで、いつかのわたしが静かに笑う。空港は今日も混んでいる。